商圏分析は無料でできる——QGISと国の統計データだけで出店エリアの人口・競合を出す方法
名古屋でAIシステム開発の会社をやっています。先日「商圏分析に使えるGISのオープンソースはあるか」と調べる機会があり、知られていないだけで、無料で相当なところまでできると分かったのでまとめます。
先に前提をひとつ。GitHubで「商圏」を検索すると、商圏分析の専用オープンソースは事実上存在しません(個人の小さなツールが数件あるだけです)。この分野は部品を組み合わせて作る領域で、その部品と、もっと重要なデータが、どちらも無料で手に入ります。
商圏分析とは何を出すことか
出店判断・FC本部のエリア設計・士業の開業地選び・営業テリトリー分けで使う分析は、分解するとこの3つです。
- 到達圏——店舗から徒歩10分・車15分で来られる範囲(円ではなく道路に沿った形)
- その範囲の人口・世帯・年齢構成——何人住んでいるか、高齢者が多いのか子育て世帯か
- 競合——同じ範囲に同業が何軒あるか
「ソフトが高いからできない」と思われがちですが、実際に高いのはソフトではありません。そしてデータは国が無償公開しています。
結論:QGIS単体+無料データで始められます
QGIS は世界標準の無料GISソフトです(オープンソース・GPL・GitHubスター14,310)。メニューまで公式に日本語化されています。WindowsでもMacでも動きます。
やることの流れはこうです。
- QGISをインストールする(無料)
- e-Stat「統計GIS(地図で見る統計)」から、国勢調査の500mメッシュ人口(年齢構成・世帯まで入っています)と境界データをダウンロードする(無料・出典明記で利用可)
- QGISに読み込み、背景地図(OpenStreetMap)を敷く
- 自店・出店候補地の住所をポイントで置き、半径1km等のバッファ(円商圏)を描く
- バッファ内のメッシュを集計する——これで商圏人口・年齢構成が出ます
競合は、経済センサスの事業所数メッシュ(これもe-Statにあります)や、業種によっては国土数値情報のデータを同じ地図に重ねれば見えます。
無料で取れるデータの一覧
| データ | 入手先 | 中身 |
|---|---|---|
| 人口・世帯・年齢構成(250m/500mメッシュ) | e-Stat 統計GIS | 国勢調査。商圏人口の本体 |
| 事業所数・従業者数(メッシュ) | e-Stat 統計GIS | 経済センサス。競合密度に |
| 駅・バス停・用途地域・商業地域 | 国土数値情報 | 立地条件の重ね合わせに |
| 道路網・背景地図 | OpenStreetMap | 徒歩圏・車圏の計算に |
いずれも出典を明記すれば事業利用できます(各データの利用規約はダウンロード時に確認してください)。
Webシステムに組み込む場合の部品表
「住所を入れると商圏レポートが出る」Webツールを自社で持ちたい場合の部品です。スター数とライセンスは当社が2026年9月1日に実測した値です。
| 役割 | OSS | GitHub★ | ライセンス |
|---|---|---|---|
| 到達圏の計算(徒歩/車N分) | Valhalla / OSRM / OpenRouteService | 6,138 / 8,027 / 1,962 | MIT / BSD / GPL |
| 空間データベース(メッシュ集計) | PostGIS + pgRouting | 2,216 + 1,427 | GPL-2.0 |
| Web地図の表示 | MapLibre GL JS | 11,498 | BSD系 |
| ヒートマップ等の可視化 | kepler.gl | 11,994 | MIT |
| 分析スクリプト | geopandas / h3 / turf.js | 5,237 / 6,509 / 10,462 | BSD / Apache / MIT |
| 道路網から徒歩圏を作る | osmnx | 5,833 | MIT |
型としては MapLibre(地図)+ Valhalla(到達圏)+ PostGIS(メッシュ集計) の3点が芯です。ユーザー数に応じた月額課金はどれにもありません。
正直な注記:jSTAT MAPで足りる場合があります
総務省統計局の jSTAT MAP は、無料の公式Webツールで、円商圏・到達圏のレポート作成までできます。単発で数か所を調べるだけなら、これが最短です。
QGISやOSSで組む意味が出るのは、次のどれかに当てはまるときです。
- 店舗候補が多く、一括で機械的に処理したい(全国の候補100か所を同じ基準で採点する等)
- 自社データと重ねたい(会員の住所分布、配達実績、営業履歴)
- レポートの形式を自社の意思決定の型に合わせたい
- 分析ロジックを社内に残し、担当者が代わっても回るようにしたい
まとめ
- 商圏分析の専用オープンソースは無い。しかし部品とデータが全部無料で揃っている
- まずは QGIS(日本語・無料)+ e-Statの500mメッシュ。ソフト代0円で商圏人口・年齢構成・競合密度まで出せる
- 単発なら総務省のjSTAT MAPが最短
- 自動化・自社データ結合・大量処理をしたくなったら、MapLibre+Valhalla+PostGISでWeb化する
「うちの店舗リストで一括処理したい」「会員データと重ねた商圏レポートを自動で出したい」といった仕組み化は、バイブプロトタイピング(税込110,000円〜)で承っています。どのデータをどう重ねるべきかの相談だけでも構いません。