義務化を3つ調べたら、国はぜんぶ無料の道具を配っていた——足りないのは記録だけだった
2026年から2028年にかけて、中小企業に3つの義務が順に来ます。カスタマーハラスメント対策、ストレスチェック、化学物質のリスクアセスメントです。
3つとも条文と施行日を一次情報で確かめ、政府が出している道具を実際にダウンロードして触りました。すると、共通点が1つ出てきました。
3つとも、国が無料で道具を配っています。そして3つとも、その道具には「記録」が入っていません。
3つの義務、いつ誰が対象か
| 施行 | 対象 | 根拠 | |
|---|---|---|---|
| カスハラ防止措置 | 2026年10月1日 | 労働者1人でも全事業主 | 改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号) |
| ストレスチェック | 2028年4月1日 | 50人未満の事業場にも拡大 | 労働安全衛生法66条の10(令和7年法律第33号) |
| 化学物質リスクアセスメント | 施行済み・毎年拡大 | 対象物質を扱う全業種 | 労働安全衛生法57条の3 |
カスハラは6日後です。ストレスチェックは2025年5月14日公布の改正法を受けて、2026年6月10日の政令で施行日が確定しました。化学物質はすでに義務で、対象物質が毎年増えています。
共通点1:国が無料の道具を配っている
3つとも、実際にアクセスして確認しました。
- カスハラ … 厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」を無料PDFで公開しています。方針の文例まで載っています。2.2MBを実際にダウンロードしました
- ストレスチェック … 厚生労働省が「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料配布しています。調査票の実施、個人結果の出力、集団分析まで入っています
- 化学物質 … 職場のあんぜんサイトがリスクアセスメントの支援ツールを無料提供しています。専門家がいなくても評価できるコントロール・バンディングの仕組みです
つまり、「義務化対応」を名乗って高額なマニュアルやツールを売る商売は、ほとんどの場合、国が無料で配っているものの再販です。ここはまず疑ってください。
共通点2:無料の道具には記録が入っていない
では何が足りないのか。3つとも、義務の中身を条文レベルで分けると同じ構造になっていました。
カスハラは、指針が定める5つの措置のうち3つが文書で足ります。方針の明確化、不利益取扱いの禁止、悪質な顧客への抑止措置。これはひな型で済みます。足りないのは残り2つ、相談体制の整備と事後の対応です。これは運用であって、方針書を作った時点では完了しません。
ストレスチェックは、条文が記録の置き場所を縛っています。労働安全衛生法66条の10第2項は「医師等は、あらかじめ本人の同意を得ないで、検査の結果を事業者に提供してはならない」と定めています。一方、同条第4項は「面接指導の結果を記録しておかなければならない」と事業者に義務づけています。検査結果は会社に置けず、面接指導の記録は会社が持つ。この2つを分けて設計しないと、あとで「誰がどこまで見ていいのか」で止まります。
化学物質は、対象が毎年増えます。リスクアセスメント対象物は、2024年4月以前の674物質から、2026年4月1日に約2,900物質へ。約4倍です。2027年分の追加もすでに決まっています。評価ツールは1つの物質を評価するためのもので、台帳ではありません。去年やった評価が今年も通用するとは限らない以上、自社の使用物質と対象一覧を毎年突き合わせる作業が発生します。
なぜ記録なのか
労働局の指導や、従業員との争いになったときに問われるのは、「方針を作りましたか」ではありません。「その件にどう対応しましたか」です。
答えるには、いつ・誰が・何を受け、誰がどう判断し、何をしたか。この4つが辿れる必要があります。方針書は1枚で済みますが、記録は件数分たまり、担当者が変わっても引き継げる形でなければ意味がありません。
実際、多くの会社はExcelとメールで始めると思います。禁止されていませんし、最初はそれでいい。困るのは、担当者が変わったとき、件数が増えたとき、そして「その件の記録を出してください」と言われたときです。
経営者がいま決めること
3つに共通して、順番は同じでした。
- 対象かどうかを数える … カスハラは全事業主。ストレスチェックは会社全体ではなく事業場ごと(ここを取り違えている例が多い)。化学物質は業種を問わず、対象物質を扱っているかどうか
- 国の無料の道具で始める … 方針・規程・評価は、これで足ります。有料のものを買う前に、まず無料のもので何ができるかを見る
- 記録の置き場所と権限を決める … 誰が書き、誰が見られ、どこに置き、何年残すか。ここだけは自社で決めるしかありません
3のところで、記録の中身が社外に出したくないものである場合があります。カスハラなら顧客とのトラブルと従業員が受けた被害、ストレスチェックなら心の健康の情報、化学物質なら製造工程そのものを示す使用物質の一覧です。外部のサービスに預けたくないという判断は、珍しくありません。
3つを1ページずつにまとめました
義務の中身を「文書で足りるもの/足りないもの」に分けて、国の無料の道具へのリンクも置いてあります。売り込みではなく、まず自社が対象かを確かめるために使ってください。
- カスハラ義務化(2026年10月1日施行・5つの措置): https://exbridge.jp/kasuhara.html?ref=vwork-gimuka
- ストレスチェック義務化(50人未満は2028年4月1日・数え方): https://exbridge.jp/stresscheck.html?ref=vwork-gimuka
- 化学物質リスクアセスメント(対象が約2,900物質に): https://exbridge.jp/chemical-ra.html?ref=vwork-gimuka
調べ方について
施行日と条文は e-Gov 法令API で現行の条文を取得して確認しました。カスハラについては、現行版(2026年4月1日施行)の労働施策総合推進法に「カスタマーハラスメント」「顧客」の語が0回しか出てこないことも確かめています。10月1日施行分がまだ反映されていない、という状態です。
政府の無料ツールは、リンクを貼る前に実際にアクセスして200が返ることを確認しました。「無料のものがある」と書くなら、そこまでやらないと書けません。