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生活保護の医療費は無駄なのか——1.9兆円はどこへ行き、誰の売上になっているか(データとお金の仕組みから考える)

2026年10月20日

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名古屋でAIシステムの開発をしている小嶋です。この記事は、統計と国のお金の仕組みをもとにした私個人の意見です。会社や、当社が公開している国会の記録のページとしての立場ではありません。

2026年10月19日の参議院予算委員会で、生活保護の医療費が取り上げられました。報道によると、2026年度の生活保護費は約3.7兆円で、そのうち医療費(医療扶助)が約1.9兆円と半分を超えます。厚生労働大臣は「医療費の無駄をなくす観点から徹底的に適正化を図っていく」と答えました。

このニュースのあと、Xでは「生活保護で医療費を使う人は足手まといだ」という意見も見かけました。私はそうは思いません。生活保護の医療費は、結果として日本の経済を回していて、企業にとっても売上になっていると考えています。その理由を、数字とお金の流れで書きます。

生活保護の医療費のしくみ

生活保護を受けている人は、国民健康保険や後期高齢者医療制度に入っていません。医療費は「医療扶助」として、原則として自己負担なしで、国と自治体が全額を出します。

ここだけを見ると、「税金で全額払っている」「無駄が多い」という話になりやすいのだと思います。

1.9兆円は、どこへ行くのか

お金は消えません。医療扶助の1.9兆円は、次のところに入っています。

医療扶助だけではありません。家賃にあたる住宅扶助は大家や不動産会社に入ります。自治体から大家へ直接払う仕組みもあるので、大家にとっては取りっぱぐれのない家賃です。食費や日用品にあたる生活扶助は、地元のスーパーやドラッグストア、コンビニの売上になります。

生活保護を受けている人は、受け取ったお金をほぼ全部、すぐに使います。貯めこまれずに、地元の店や病院に落ちていくお金です。消費する側として、生活保護の人は経済に参加しています。

国は「集めた税金」を配っているのではない

「でも、そのお金は誰かが払った税金だろう」と言われます。ここは、国のお金の仕組みを見たほうが正確です。

2026年度の国の一般会計は約122兆円です。税収は約84兆円で、歳出の約4分の1(公債依存度24.2%)は国債でまかなっています(財務省「日本の財政関係資料」2026年4月)。国は、税金が集まってから使う順番にはなっていません。国が支払いをすると、その時点で銀行の預金が新しく生まれます。税金は、あとでそれを回収する役目です。

また、日本銀行は国債を市場から買い入れてきて、国債(短期のものを除く)の約半分を持っています(2025年12月末で49%)。日銀が国のためにお札を刷って直接渡すことは財政法で原則禁じられていますが、国債を出して、日銀がそれを支え、国がお金を使っている。これが実態に近い姿です。

自分のお金で通貨を発行できる国では、お金が足りなくて払えなくなることは、仕組みの上では起きません。国が使うお金の本当の制約は「お金の量」ではなく、物価が上がりすぎないかと、人や物が足りるかです。

だから、「自分たちが払った税金を、生活保護の人に取られている」という見方は、実際のお金の流れとは合いません。国が出したお金が、病院・薬局・大家・スーパーの売上になって、経済を回しています。

物価は上がらないのか

国が出すお金が、経済の供給の力を超えれば物価は上がります。では、生活保護はどのくらいの大きさでしょうか。

この規模で物価を押し上げる、という話にはなりません。

看護師が足りないのは、仕事の割り振りの問題

「お金はあっても、医療の人手には限りがある。生活保護の人が医療を使えば、その分ほかの人の医療が手薄になる」という反論もあります。

私は看護補助者として病院で働いたことがあります。その経験から言うと、看護師が足りない理由の多くは仕組みです。おむつ交換、食事の介助、体を拭く、シーツ交換、物を運ぶ。こうした仕事は看護師の資格がなくてもできますが、病院によっては看護師がやっています。

病院の入院料は「患者何人に看護師1人」という配置基準で決まるので、病院は看護師を集めることを優先しがちです。看護師がやらなくていい仕事を看護補助者に回せば、看護師はもっと看護に時間を使えます。看護補助者は、待遇の低いほかの多くの仕事と比べて、むしろ人を集めやすい仕事でした。

人手が足りないのは、医療の仕事の割り振りとお金の付け方の問題です。生活保護の人が医療を使うことのせいではありません。

生活保護を受けている人は、誰なのか

「働けるのに働かないで受けている」というイメージも根強いと思います。厚生労働省の被保護者調査(2026年6月分の概数)で、受給している164万世帯の内訳を見ると、次のとおりです。

8割は、高齢・障害・病気の世帯です。もともと働くことが難しい人たちで、誰かの仕事を奪っているわけでもありません。「その他の世帯」にも、病気の手前や家族の介護など、すぐには働けない事情の人が含まれます。

ちなみに、2026年8月の完全失業率は2.5%(総務省「労働力調査」)で、失業者は180万人います。働きたい人がすべて働けている状態ではありません。

では、何を議論すべきか

生活保護の医療費に、見直すべき点がないとは思いません。報道によれば、10月19日の国会では、患者の8割以上が生活保護の受給者という病院が324あることが取り上げられました。政府も、同じ人が何度も受診する「頻回受診」への訪問指導や、後発医薬品の使用の原則化を進めています。こうした使い方の問題は、データで確かめて直していけばいいと思います。

一方で、「自己負担を求めれば医療費が減る」とは限りません。政府は2024年の質問主意書への答弁書で、窓口負担について「必要な医療の受診まで抑制され、むしろ長期的には医療費が増えるという懸念」などを挙げて、「導入には課題がある」としています。

医療扶助の自己負担についての質問主意書と、政府の答弁書 https://kurage.exbridge.jp/kshuisho.php/q/san-213-19

まとめ:生活保護は、日本経済にとって悪くない

私の考えをまとめます。

  1. 生活保護の医療費1.9兆円は、病院・薬局・製薬会社の売上になり、医療で働く人の給料になっている
  2. 国は集めた税金を配っているのではなく、国が出したお金が企業の売上になって経済を回している
  3. 規模は経済全体の1%にも満たず、物価を押し上げるほどではない
  4. 看護師が足りないのは仕事の割り振りの問題で、生活保護の人が医療を使うせいではない
  5. 受給世帯の8割は高齢・障害・病気の世帯で、誰かの仕事を奪っているわけではない

生活保護の人を「足手まとい」と見るのは、お金の流れを片側からしか見ていないからだと思います。議論すべきは、医療を使うこと自体ではなく、使い方のほうです。

よくある質問

生活保護を受けていると、医療費は自己負担なしですか

原則として自己負担はありません。生活保護を受けている人は国民健康保険などに入らず、医療費は「医療扶助」として国と自治体が出します。受診のときは、福祉事務所が出す医療券などを使います。収入がある場合は、その一部を負担することがあります。

生活保護の医療費は、全部でいくらですか

2026年度の生活保護費は約3.7兆円で、そのうち医療扶助が約1.9兆円と半分を超えます(2026年10月19日の参院予算委員会の質疑の報道による)。日本の名目GDP(2025年度 約669兆円)の約0.3%にあたります。

生活保護の医療費に、自己負担を入れる話はありますか

国会では、受給者を国民健康保険などに入れて一部を自己負担にするべきだという主張が出ています。一方、政府は2024年の答弁書で、最低生活の保障との両立や、受診を控えてかえって医療費が増える懸念などから「導入には課題がある」とし、一部の自治体で試行することも考えていないと答えています。