GISは商圏分析だけではない——住所の地図化・訪問ルート・位置つき記録まで、業務で使えるオープンソースを実測した検索需要つきで整理する
GIS(地理情報システム)というと商圏分析を思い浮かべる方が多いのですが、実際の応用範囲はもっと広いです。住所を地図に載せる、訪問先を回る順番を決める、どこで作業したかを記録する——どれもGISの仕事です。
この記事では、業務で本当に使える範囲を、実際に動かせるオープンソースと紐づけて整理します。あわせて、それぞれの分野の検索需要をキーワードプランナーで実測した数字も載せます。「どこに需要があるか」を先に知っておくと、作るものの優先順位を決めやすいからです。
先に結論:ニッチな「◯◯管理システム」で探すと何も見つからない
調べていて分かったことがあります。業種ごとの専用システムを名前で探しても、情報がほとんどありません。
キーワードプランナーで実測した月間検索数です。
| 検索語 | 月間検索数 | 競合指数 |
|---|---|---|
| 不動産 物件管理システム | 30 | 54 |
| 設備点検システム | 20 | 62 |
| 巡回点検アプリ | 20 | 54 |
| 圃場管理 | 90 | 7 |
一方、GISそのものはこうです。
| 検索語 | 月間検索数 | 競合指数 |
|---|---|---|
| GIS | 18,100 | 4 |
| QGIS | 14,800 | 0 |
| GIS とは | 6,600 | 0 |
| 経路探索 | 5,400 | 0 |
| 地理情報システム | 1,900 | 3 |
| WebGIS | 1,300 | 12 |
| ジオコーディング | 720 | 2 |
| 住所 緯度経度 変換 | 480 | 2 |
| 地図にプロット | 390 | 1 |
(キーワードプランナー・2026年9月実測。競合指数は0〜100で、広告の競り合いの強さを表します)
つまり、専用システムを探すのではなく、GISの部品を組み合わせて自分の業務に当てるほうが、情報も道具も圧倒的に手に入りやすいということです。以下はその部品のカタログです。
1. 住所を地図に載せる(ジオコーディング)
顧客名簿、物件リスト、取引先一覧。手元にあるのはたいてい住所の文字列で、地図に載せるには緯度経度に変換する必要があります。これをジオコーディングと呼びます。
使えるOSS
Nominatim — OpenStreetMapのデータを使った住所検索エンジンです。自社サーバーに立てれば、何件変換しても無料で、住所データが外に出ません。顧客の住所を外部APIに送りたくない場合はこれ一択です。
こんな場面
- 不動産会社が、管理物件を地図上に並べて空室の分布を見る
- 卸売業が、取引先を地図に落として担当エリアの偏りを見る
- 士業事務所が、顧問先の分布から次の営業エリアを決める
Excelの住所列をそのまま流し込めば、地図に載る形になります。ここがGIS活用の入口です。
注意点
日本の住所は表記が揺れます。「1-2-3」「一丁目2番3号」「1ー2ー3」が同じ場所を指します。Nominatimはそのままだと取りこぼすので、変換前に住所の正規化を挟むのが実務では必須です。番地まで当たらない場合は、丁目までで妥協して精度を割り切る判断も要ります。
2. 訪問・配送の順番を決める(経路探索)
「今日は10軒回る。どの順番なら一番早いか」。これを人の勘でやっている会社は多いのですが、計算で出せます。
使えるOSS
- OSRM(osrm-backend) — 高速な経路探索エンジン。数万件の距離計算でも実用速度です
- Valhalla — 徒歩・自転車・トラックなど移動手段ごとの条件を細かく設定できます
- openrouteservice — 到達圏(ここから30分で行ける範囲)の計算が得意です
- pgRouting — PostgreSQLの中で経路計算します。既存のデータベースに組み込みたいときはこれ
こんな場面
- 配置薬(置き薬)の会社が、補充で回る家庭の順番を決める
- ルート営業が、担当エリアの訪問順を組む
- 訪問介護・訪問看護が、移動時間を減らしてサービス時間を増やす
- 設備の定期点検で、次に回る現場の順番を決める
配置薬のような決まった訪問先を定期的に回る業務は、実は経路探索がいちばん効く分野です。訪問先は変わらないので、一度良い順番を作れば長く効きます。
注意点
計算上の最短が、現場にとっての最適とは限りません。「午前中は先方が不在」「この道は大型車が入れない」といった条件は、システムに入れないと反映されません。最初は提案までにして、確定は人がやる運用が現実的です。
3. 商圏を出す(出店・営業エリアの判断)
住所を入れて、その周辺の人口・世帯・事業所を出します。出店の判断や、営業エリアの見直しに使います。
使えるOSS
QGIS — デスクトップのGISソフトです。国が公開している統計データ(国勢調査の地域メッシュ、経済センサス)を読み込めば、追加費用なしで商圏が出せます。
PostGIS — 空間データを扱えるPostgreSQLの拡張です。「この点から半径1kmに入るメッシュ」といった検索をSQLで書けます。件数が多いときはこちらへ。
こんな場面
- 飲食店が、出店候補地の徒歩10分圏の人口を比べる
- 美容室が、移転先の年齢構成を見て客層が合うか判断する
- 建設・工務店が、施工エリアの世帯数から営業範囲を決める
注意点
商圏分析そのものの検索需要は、実は小さいです(「商圏分析」480/月・競合指数54、「商圏分析ツール」210/月・指数60)。知られていないだけで、使えば効く分野です。逆に言えば、社内で説明するときは「商圏分析をやりたい」ではなく「出店の判断材料を数字で出したい」と言ったほうが伝わります。
4. どこで作業したかを記録する(位置つきの記録)
作業報告や打刻に位置情報を添えると、「行った・行かない」の水掛け論がなくなります。
使えるOSS
- HR-Management-and-Geo-Attendance-System — 位置情報つきの勤怠管理
- GeoNotes — 地図上にメモを残す仕組み
- SMASH — 現地調査向けの地図アプリ
こんな場面
- 建設・設備の現場で、作業報告に場所を紐づける
- 巡回警備・清掃で、指定の地点を回ったことを記録する
- 訪問系のサービスで、訪問実績を客観的に残す
注意点
位置情報は従業員の個人情報です。 取得する範囲と保存期間を決めて、本人に説明したうえで同意を取ってください。「勤務時間中の打刻の瞬間だけ」といった線引きを明示するのが実務的です。常時追跡は、法的にも心理的にもトラブルのもとになります。
5. 大量の位置データを集計する・見せる
点が数万・数十万になると、そのまま地図に置いても真っ黒になるだけです。集計して見せる工夫が要ります。
使えるOSS
- H3 — 地球を六角形のマス目に分割して集計する仕組みです。「このエリアに何件」を高速に出せます
- kepler.gl — 大量の位置データを地図上で可視化します。ブラウザで動きます
- GeoServer — 作った地図を社内に配信します
- OSMnx — 道路網そのものを分析します
こんな場面
- 配送履歴を集計して、実際によく走っているエリアを可視化する
- 問い合わせの発生地点を集計して、次の拠点をどこに置くか決める
6. 農地・圃場を管理する
ekylibre — 農業経営の管理システムで、圃場(区画)を地図として持てます。どの区画に何を植えて、いつ作業したかを地図つきで記録できます。
検索需要は小さい分野です(「圃場管理」90/月)が、実際に紙とExcelで管理している農家・農業法人は多く、当てはまれば効きます。
どこから始めるか
いきなり全部は要りません。順番はこうです。
- 手元の住所データを地図に載せる(ジオコーディング)。まずこれだけで発見があります
- 載せた点を見て、偏りや空白地帯を確認する
- 訪問業務があるなら、回る順番の計算を足す
- 現場の記録が必要なら、位置つきの記録を足す
1と2はQGISだけで、追加費用なしでできます。ソフトの費用がかからないので、まず試してから投資を判断できるのがオープンソースの利点です。
部品として使えるものの一覧
当社では、この分野のオープンソースを継続的に調べて一覧にしています。ライセンスと日本語対応の実測つきで比較できます。
商圏分析については、QGISと国の統計データだけで出す手順を別の記事にまとめています。住所を入れるだけで徒歩圏の人口・世帯・事業所が出る買い切りのツールもKurage App Storeに置いています。
「うちの業務だとどれが当てはまるか」が分からない場合は、扱っているデータ(住所の件数、訪問の有無、記録の必要性)を教えていただければ、当てはまる部品をお伝えします。